秋、私の栗園では1日平均120kgの栗を収穫します。
一粒20gとして、約6,000粒です。
10人ほどで朝5時~9時頃まで収穫して、
15人ほどで選果作業します。
人数増やしているのに、収穫の2倍ぐらい選果の方が作業時間長いです。
ちなみに、近隣の栗農家さんは70代以上の高齢者が多いのですが、
我が家と同じぐらいの収穫量でもご夫婦2人だけで選果作業を行っています。
おじいちゃん、おばあちゃんが2人でできる作業を、
なんで松尾栗園は15人もアルバイトを雇用する必要があるのか?
それは、私の栗は無薫蒸で45日間冷蔵熟成して、
最終的に焼き栗にして販売しているためです。
多くの栗農家さんが栗を収穫して選果したら、
収穫当日または翌日に各地のJAや市場に卸すことが一般的です。
日本国内の多くのJAは専用施設で薫蒸(くんじょう)いう処理を施します。
薬剤(ヨウ化メチル薫蒸剤)を含んだ蒸気を栗に浸透させ、
中にいる虫や虫の卵を殺す処理方法です。
伝染病の元菌も殺せます。
(※薫蒸処理を行わないJAも一部あります)
薫蒸のメリットとしては、
① 薬剤で殺虫してくれるので、選果は誰が見ても一目見て気付くような病中被害果実だけ取り除けばいい。
② 虫の卵が孵化しないので、お客様からのクレームがない。
一方、デメリットは、
① デンプンが硬くなり、品質が劣化する。
② 栗の風味が落ちて、薬剤の臭いが残る。
(焼き栗にした場合は特に、栗の香ばしさより薬品臭さが漂います✕✕✕)
どちらを選ぶか…
多くの栗農家さんがJAでの薫蒸を選ばざるを得ないというのが現状です。
選果で一番難しいのがクリシギゾウムシという虫の卵を見分けること。
マチ針でチクッと刺したような直径1mmもない小さな小さな穴です。
この穴、老眼だと絶対に見つけられないのです。
日本の栗農家はほとんど高齢者です。。。
それに、この穴を目視で見つけようとすると、
選果の作業時間が10倍かかります。
今までの選果が1粒1秒だったのに、1粒10秒かかります。
それが6,000粒だと選果だけで1日16時間以上…
とても高齢者の個人農家では無理なのです。
クリシギゾウムシは収穫直前の栗果実に卵を産み付けます。
幼虫に孵化するまでの潜伏期間は1週間程度です。
JAも幼虫混入のクレームは一番避けたいので、
卵が孵化する前、収穫直後に薫蒸処理しておくことが無難なのです。
最近は薫蒸しないで、
選果後の栗を即冷凍か即加工に回すJAや食品会社も少しずつ増えてきたようです。
私の栗園では秋になると、住み込みアルバイト約10名。
通勤で5名ほど雇用しています。
住み込みは約7割が夏休み中の大学生です。
収穫の体力と選果の視力を兼ね備える若い人材が必要となります。
そして、採用試験はずばり、クリシギゾウムシの穴が見分けられるか?
ゾウムシの被害果20粒渡して、20粒すべてパーフェクトで見つけられれば採用です。
1粒でも見逃せば、その1粒がクレームとなり、お客様の期待を裏切ることになります。
ピーク時の選果量は10,000粒超えることもありますが、
何粒あっても選果は絶対にパーフェクトを目指して取り組んでもらっています。
せっかく私たちの栗を選んで買って頂いたお客様に損をさせたくないのです
さらに、私の栗はマイナス1℃で45日間冷蔵熟成します。
つまり、45日経過後も良品である選果でなければいけません。
ゾウムシの穴はもちろん、実炭そ病という伝染病の初期症状も見落としてはいけません。
選果基準、めちゃめちゃ厳しいです(^_^;)
余談ですが、一昨年住み込みアルバイトに来てくれた法政大学3年生の男子が、
昨年、東京都庁の公務員採用試験に合格しました。
履歴書に特技「栗の選果」と書き、面接でも私の栗園での体験を語ってくれたそうです(笑)
さらに、同時期18日間滞在してくれたお茶の水女子大学のみかんちゃん(当時3年生)。
彼女が松尾栗園での体験を記事にしてくれました。
僕自身が当たり前だと思ってやってきた選果。
それがみかんちゃんのおかげで、
この松尾栗園独自の選果こそ価値ある事だと気付かせてくれました。
⇓
私たち夫婦がいつか老眼になってゾウムシの穴が見つけられなくなったら、
もしかしたら熟成も焼き栗製造も直販もすべて止めて、
JAに出荷する日が来るかもしれません。。。
栗農家を引退せざるを得ないかもしれません。。。
幸い、今のところはゾウムシの穴しっかり見分けられています。
素材の味だけでどこまで美味しくできるのか…
もう少し理想を追いかけてみます。
無燻蒸で、マイナス1℃で45日間じっくり冷蔵熟成した栗。
収穫直後の栗と食べ比べると全然違います。
本当に3倍美味しく感じます(笑)
(2019/9/1作成)
つづく