5つ理由があります。
① 好き
② 探究心
③ 感謝
④ 罪悪感
⑤ 栗の樹
① 好きな事を仕事にできる。
こんな幸せなことはないと思います。
能登に来て栗農家になって9年経ちました。一度も辞めたいと思ったことがありません。
栗のためにやりたい作業が毎年増え続けています。それだけでも天職だと感じています。
② 探究心が止まりません。
別次元の美味しい栗を作れる人になりたい。想像を超える味にしたい。
「どうして? 普通じゃダメなの?」
松尾栗園はそれではダメです。いつか必ず潰れます。
能登では大多数の栗農家さんが農協に生栗で卸します。多くの農家さんたちの栗と混ざり、加工場でむき栗に一括処理されます。
その後、加糖されてお菓子等になります。私もその一員でしたら普通を目指します。高品質を目指す意味がありません。
しかし、私は松尾栗園という屋号を掲げて、直接お客様に販売させてもらっています。
わざわざ松尾栗園を選んで買って頂かなくてはいけません。
個人農家の限られた収穫量で利益を生み出せる値段を付けています。一般的な相場よりも高価格になってしまいます。
だからこそ、高価格に釣り合う高品質を追い求めます。
もうひとつ、僕に欲を生み出させてくれるのが信州ぷ組の存在です。
信州ぷ組とは私が所属する新規就農者グループ。長野県内を中心に約40人の農家仲間が切磋琢磨しています。
農家としてレベルアップするために自ら企画した勉強会、農場視察、作物品評会、栽培技術発表会、経営ビジョン発表会などを定期的に実施しています。このメンバーが驚きの結果を出しているのです。
毎年、数名と物々交換したり、時には購入もします。すいか、りんご、ぶどう、トマト、ナス、キュウリ・・・本当に、一口食べて違いが分かります。
今まで食べたことない美味しさです。常識を超える作物を育てる人が何人かいます。
夢じゃなくて、新規就農者でも出来るんだと教えてくれました。
③ 感謝
きれいごとに聞こえるかもしれません。でも、これが最大の理由です。
お客様。取引先。家族。アルバイト。農家仲間。協力、応援者。自営業者になって初めて気付きました。
自分が誰かの支えで成り立っていること。自分が好きなことやって生きていけるのは必ず誰かのおかげだということ。
何と言っても買っていただけるお客様がいないと私は廃業します。
せっかく出会えたこの大好きな仕事が続けられません。私の焼き栗は申し訳ないですが高価格です。私自身が消費者としても簡単には買えない価格帯です。それをわざわざ購入頂けるお客様。本当にありがたい存在です。お金を頂けるだけでは終わりません。
そのお客様の声と笑顔。これこそ私の最大のモチベーションです。
「美味しかったよ」「毎年楽しみにしています」「ずっと作り続けてくださいね」・・・
こんな嬉しいこと言ってもらえて、もう農家を止められません!(笑)
そして、その喜びを家族、仲間と共有できたらなお最高です。
④ 罪悪感
素人から始めて9年。数々の失敗がありました。当初は苦情を頂くことも少なからずありました。
「虫被害果が混入していた」
「今日届くはずなのに来ない」
「前回注文したものより美味しくない」
「袋が破れている」
「買って損した。二度と買わない」
せっかく高価な買い物をして頂いたお客様に対して、大変なご迷惑をかけてしまいました。
当然、こんな商売をしていたら簡単に信用を失います。ただ、代替品を送れば済む問題ではありません。
期待と楽しみを裏切ってしまった罪悪感。こんな気持ちは二度と味わいたくありません。
お客様が喜ばなかったら、自分の仕事が全然楽しいと思えません。
この罪悪感を感じるような商売は絶対にしたくありません。
せめて、同じ過ちを繰り返さないようにと対策を講じながら9年間歩んできました。
大変ご迷惑をかけてしまいましたが、ここまで私を成長させてくれたのもお客様でした。
我慢強く私の成長にお付き合いくださるお客様に、ちゃんと恩返しがしたい。
「やっぱり松尾栗園で買ってよかった」
すべてのお客様にそう言ってもらえる仕事をし続けたいと思います。
⑤ 栗の樹
栗の樹に対しては特別な感情があります。いつも同じ場所で生き続け、実を産み落としてくれる生命力。
自分に落ち度を感じているだけに、本当にけなげで、ありがたい存在です。
1,000本以上の栗の樹のおかげで何とか今日まで食べてこれました。
9年前、栗のことを何も知らない素人がめちゃくちゃな栽培を始めて、一番痛みと苦労とストレスをかけてきたのが栗の樹たちです。
まともに剪定をしなかった年は、樹の内部の陽当たり不良で弱らせてしまいました。
極端に強剪定した年は、地上部の枝数と地下部の根量のバランスが崩れ、1年で20本もの樹を枯らしてしまいました。
肥料を施すタイミングも、今思えば栗の樹が欲している時期とまったく合っていませんでした。
栗の根の養分吸収時期に耕運機をかけて、せっかく伸びた細根を切っていた可能性もあります。
草刈りの回数も当初は少なく、果実肥大期に草と競合させて大変なストレスを与えていました。
栗の樹は何も言いません。
下手をすれば静かに死んでいきます。
上手くいけば豊作の喜びを与えてくれます。
何とか、栗の樹の頑張りに報いたい。
もっと、栗の樹の生態系を知りたい。
もっと、栗の樹が快適に生きられる環境を作ってあげたい。
もっと、栗の樹のポテンシャルを引き出してあげたい。
いい栗を収穫したかったら、いい栗の樹を育てること。
いい栗の樹を育てたかったら、いい栽培をすること。
いい栽培をしたいから、もっと栗のことを勉強したい。
そこに尽きると思います。